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狭心症・心筋梗塞の治療法と予防

はじめに

心臓が動くのには心臓の筋肉(心筋)が使われますが、この筋肉に酸素や栄養を送る血管が冠動脈です(図1)
一般に、冠動脈の血流が悪くなり胸痛が起きる病気は虚血性心疾患と総称され、狭心症と心筋梗塞(図2)がその代表例です。
今回はこの病気の最新の治療法や予防を紹介します。

  • 心臓の血管の名称
  • 狭心症と心筋梗塞の状態

冠動脈が狭くなる狭心症、心筋梗塞

胸の痛みが危険信号 心停止の可能性も

狭心症や心筋梗塞にかかりやすいのは、生活習慣病(用語解説①)がある人で、このような危険因子を持つ人は、冠動脈内にプラークという悪玉コレステロール(LDLコレステロール)などの脂の塊ができてしまいます。この塊により冠動脈が高度に狭窄(きょうさく)するのが狭心症です。プラークは火山のようなもので、ある日、プラークの中の脂が噴火活動の様に血管内に飛び出してきます。

この脂が血液と混じり合う血液の塊(血栓)が形成され、それにより冠動脈が完全に詰まり、その先の心筋が壊死するのが心筋梗塞です。

心筋が酸素不足に陥ると狭心症発作が起こります。階段の昇り降りやゴルフなどで体を動かした時に締めつけられるような胸の痛みを感じるのが典型的です。また、胸の範囲だけでなく、下あごから肩、みぞおちの範囲(ネクタイを締める範囲)で痛みを感じる場合もあります(図3)

症状は、狭心症の段階であれば通常は3~5分で治まりますが、心筋梗塞まで至ると20分以上続きます。心筋梗塞の前段階として狭心症を起こす場合が多いため、狭心症と思われる症状が起きた場合、たとえ数分で治まっても、循環器内科医のいる最寄りの医療機関を速やかに受診することが必要です。また、心筋梗塞と思われる胸の痛みを感じた時は、危険な不整脈で突然の心停止を起こす場合がありますので、119番通報して救急車を呼びましょう。

痛みの範囲

なお、仙台厚生病院では、昼間はもちろん夜間でも2名以上の循環器内科医が在院しているという全国的にも稀有な診療体制をとっていますので、狭心症や心筋梗塞に対する以下のような検査・治療が24時間いつでも迅速に行えるのが特徴です。

検査は負担が少ない

狭心症と心筋梗塞の疑いがある場合、治療する可能性を考えると心臓カテーテル(用語解説②)検査が、最も重要な検査となります。この検査では、手首もしくは太ももの動脈に、局所麻酔をした上でカテーテルを心臓まで挿入し、冠動脈を造影します(正式には冠動脈造影検査といいます)。

カテーテルは冠動脈内の物理的に狭い場所を細かく観察するのに適しており、その後の治療の方針を組み立てる上で非常に役に立つ検査です。検査だけであれば、15分前後で終了し、大きな合併症もほとんど発生しません。特に手首からの検査であれば、身体的負担は少ないので80歳以上の高齢者でも安全に受けることができます。

また、最近ではCT検査(用語解説③)が発達してきました。立体的な冠動脈画像を作成することで、冠動脈内腔がどれほど狭くなっているのかを把握でき、また冠動脈壁の動脈硬化の状態を観察することができます(図4)
CT検査の利点は、入院が必要ないという点です。撮影前後の安静時間を含め1時間30分ほどで終了します。

技術進むカテーテル治療

管を入れ、血管広げる 狭心症なら数日で退院

発作予防には薬剤

狭心症や心筋梗塞の治療は、薬物治療、心臓カテーテル治療、冠動脈バイパス手術(用語解説④)を適切に組み合わせて行われます。薬物治療は、薬剤で冠動脈を拡張させて血流を増やしたり、心臓の負担を減らすことで、狭心症発作を予防したり心筋梗塞の範囲を軽減させます。
しかし、薬物治療だけで症状が改善しない場合や、冠動脈の狭窄が非常に強い場合、冠動脈が完全に詰まっている場合は、心臓カテーテル治療や冠動脈バイパス手術が選択されます。特に最近ではカテーテル治療の発達に伴い、胸を切らずに治せる心臓カテーテル治療が選択されることが多くなってきています。

心臓カテーテル治療は、手首にある橈骨(とうこつ)動脈や足の付け根にある大腿動脈を局所麻酔し、そこから直径2ミリ程度のカテーテルを挿入して血管の中から冠動脈の狭窄を治療します。近年では身体への負担の少ない橈骨動脈からの治療が主流となっております。

カテーテル治療はバルーン(風船)で狭い場所を拡張するバルーン拡張術や、金属でできたステント(網目状の筒)を狭い場所に留置して血管を拡げるステント留置術が主な方法です。ステントは薬剤が塗布されている「薬剤溶出性ステント」を用いることでステント再狭窄(ステントの中が再び狭くなる現象)の頻度を減らすことができます。
手術の時間は30〜60分程度、長くても2時間以内で終わることが多く、狭心症の段階であれば、手術後は数日で退院、日常生活への復帰が可能となります(図5)


硬い病変削る器具

その他、使用できる病院は限定されるものの、狭くなっている場所が石のように硬くなっている場合にはロータブレーターやダイアモンドバックという器具で削り取ったり、プラークにレーザーを当ててプラークを減少させるエキシマレーザーなどの治療を併せて行ったりすることで、従来のカテーテル治療では難しかった冠動脈の狭窄もより安全、効果的に拡げることが可能となってきています(図6)

  • 心臓カテーテル治療
  • プラークを削る方法

当院でのカテーテル治療件数は年間1000件以上です。また当院では胸部症状を伴う救急患者を24時間体制で受け入れており、そのためより重症である急性心筋梗塞や不安定狭心症に対する緊急の治療件数が多く、地域住民の皆様が安心して生活できますよう、診療体制の充実に努めております。


用語解説
  1. 生活習慣病 糖尿病、高脂血症、高血圧など、食事や運動の有無、喫煙、飲酒などの生活習慣が原因となる病気。遺伝や加齢(男性40歳以上、女性50歳以上)も一因として考えられる。
  2. カテーテル 医療用の柔らかい管。血管や消化管、尿管などに挿入し、薬剤や造影剤の注入、体液の排出などに用いられる。用途により太さや材質はさまざまだが、心臓用には特殊プラスチックが用いられることが多い。
  3. CT検査 コンピューター断層撮影による検査。エックス線を使って身体の断面を撮影する。特に心臓、大動脈、気管支、肺などの胸部、肝臓、腎臓などの腹部の病変には優れた描出能力を持つ。
  4. 冠動脈バイパス手術 狭くなったり詰まったりしている冠動脈の先に、血液のう回路を新しく作ることで、心筋の血流障害を改善する治療法。胸の裏側などにある直径2~3ミリの動脈を採取して施術する。



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